人間禅道場

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(たき)    万古 (ばんこ) 無弦 (むげん) (こと)


  

   



 昨年の夏、郷里山形の知人から、 「瀧の一字を大きく揮毫し、それに気のきいた文句を小さく書き添えてくれ」という、面倒な頼みをうけた。そこで遠慮のない間柄とて、へたながらも瀧の一字を大きく一気に書きなぐり、それに「万古無弦琴」の五字を添えて送っておいた。今さら、解説もいるまいが、その心はだいたい次のようなことである。

 明治の末頃から、まず全国の女学生の間で盛んに歌われ、大正期に入って広く愛唱されるようになった唱歌に「美しき天然」がある。ご年輩の方にはなつかしい思い出の歌であろう。それは武島(たけしま)羽衣(はごろも)の作詞に佐世保の海軍軍楽隊長であった田中穂積(ほづみ)が作曲したもので、その一番の歌詞は

 空にさへづる鳥の声   峰より落つる瀧の音

 大波小波(とうとう)と     響き絶えせぬ海の音

 聞けや人々面白(おもしろ)き    此の天然の音楽を

  調(しら)べ自在に()き給ふ   神の(おん) 手の(たふと)しや

  というものである。


 那智(なち)の瀧にせよ、華厳(けごんの瀧にせよ、太古の昔から「美しき天然の音楽」を奏でて、今日に到り、さらにこれからも未来永劫にわたって、その「弦の無い琴」を奏で続けることであろう。「瀧」の一字に、「万古無弦琴」と書き添えたゆえんである。


 といって、この無弦の琴を千古万古にわたって奏でているのは、もとより瀧だけではない。「空にさへづる鳥の声」や「響き絶えせぬ海の音」をはじめ、軒端の雨だれの音も松吹く風の響きも、さらには枯林をどよもす吹雪の音もみな天然の音楽であり、万古無弦の琴の音である。そしてこう見るのが大乗仏教の自然観なのである。どうぞして大自然の景観や春夏秋冬のたたずまい、また朝な夕なの景色を単にそれだけのものと見ず、神の弾きなす音楽と聞き、仏の御手になる錦や絵画と眺め、神の御業になる広大な建築と仰ぎ、深く味わいながら生きたいものである。



『新版 一行物 禅語の茶掛』芳賀幸四郎著(人間禅師家・東京教育大学教授)より
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